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社員対談

最前線で活躍するスタッフが取り組む
「合意形成や共感づくり」への想い

PR本部 コミュニケーション・ディレクター
五十嵐 匠
Takumi Igarashi

PR本部 コミュニケーション・ディレクター

桂 しづか

Shizuka Katsura

近年、コミュニケーションの領域では「情報を正しく、広く伝える」だけでなく、「想いに共感していただき、行動に移してもらう」ことの重要性が注目されるようになってきました。さまざまな関係者が「共感」を軸に、ともにひとつの目的を実現していく「共創」の動きも活発になっています。そんな中でPRパーソンはどのような役割を果たすべきなのでしょうか。中堅スタッフとしてクライアントや関係者と対峙し、現場をつくりあげている五十嵐匠と桂しづかが、事例を交えながら紐解いていきます。

本来の意味での「パブリックリレーションズ」を実践する業務が増えている

五十嵐匠(以下、五十嵐):私と桂は同期で、2016年に入社しました。新卒からPR業務に関わってきましたが、ここ数年で特に、パブリックリレーションズにまつわる風向きに変化が生じているように思います。
私が入社した頃――今でも変わらない部分もありますが――パブリックリレーションズといえばまだまだパブリシティ、つまりメディア露出の獲得を第一の価値として求められるところがありました。しかしSNSの興隆も手伝って、情報伝達の経路は多様化しています。企業の言いたいことをマスメディアの力を借りて発信する以外にも、生活者に対して働きかける手法は多岐にわたっており、よく吟味しなければ、共感を得ることは難しい時代になっています。

こういった世の中の変化も後押ししているのだと思いますが、本来の意味での「パブリックリレーションズ」、つまり、「組織とそれを取り巻く個人や集団との良好な関係」を築いていくことが、今まで以上に重視されるようになってきています。

桂しづか(以下、桂):もちろん企業も、自分たちのことを広く世の中に知ってほしいという想いがあります。今でもクライアントから、パブリシティの成果をひたすら求められることもよくありますし、それは当然の期待だと思います。でも、それが正解の場合もありますが、そうではない場合も少なくありません。
私はクライアントから依頼をいただいた際に、「本当にクライアントのためになることってなんだろう」と考え抜いて提案するようにしています。PRパーソンの役割は、企業と社会の間に立って、その企業が社会に対してどんな価値を提供できるのかを見つけて、実行していくこと。クライアント自身も気づいていないようなその価値の原石を見つけて、磨いて、社会に送り出すような仕事をしたいと思っています。
たとえパブリシティの成果を期待された案件であっても、考え抜いた末、ほかの手法のほうが良いとなればパブリシティ獲得に留まらない提案を行うこともあります。世の中に対してクライアントの価値を知ってもらうことができ、共感を得られるのであれば、そちらを選ぶべきだと提案できるPRパーソンでありたいですね。

五十嵐:私の先輩は、クライアントやプロジェクト関係者と打ち合わせをするとき、PRとさらっと言わずに、常に「パブリックリレーションズ」と言葉にしています。「PR=パブリシティ獲得」というちょっと古いイメージを払拭するためにあえてそうしているそうです。私はこれを聞いていて、すごくいいなと思って真似しているんです(笑)。
理解してくださるクライアントもたくさんいらっしゃいますが、私たちPRパーソンも常に、パブリックリレーションズの本質を伝えていく努力をしなければならないと思っています。

想いに共感したメンバーが集い、最適な相手に最適なカタチで価値を届ける

桂:企画のコアがパブリシティ獲得とは異なるパブリックリレーションズはどんなものがあるのか、事例をお話したほうがイメージしやすいと思います。私が携わった業務の中で印象深かったのは、ある地域の案件です。
そのクライアントはそれまで、話題の企業やコンテンツとのコラボレーションなどを行って、メディア露出獲得に比重を置いた情報発信戦略をとってきました。それがあるとき、私たちのチームと企画をゼロから練ってみようということになったのです。ところがいくら考えても、本当にこれでクライアントの伝えたいことが伝わるのだろうか、とモヤモヤが残ってしまう状況でした。

行き詰まってしまった結果、パブリックリレーションズの目的に立ち返りました。今クライアントがやるべきことは、不特定多数に向けた情報発信ではなく、その地域を盛り上げる“仲間”になってくれる人を見つけ、増やしていくような施策なのではないかという結論に至ったのです。まず味方になってもらいたい人は、その地域の住民に他ならないとして、地域住民の日常にクローズアップするようなコンテンツをつくり、地元での写真展開催などの施策を企画・実行しました。
パブリシティの総量は、前年までと比べれば減ったものの、たとえ小さな範囲でも、本当にそのクライアントのファンになってくれるような人とリレーションを形成していくことが重要であると、クライアントが理解してくださったこと、これが非常に大きな成果でした。

この企画には、クライアント(自治体)、地元で活動する編集者など様々な専門性をもったプロの方々、そして地域住民の皆さんにご参画いただきました。プロジェクトの想いにご賛同いただいた皆さんが、それぞれの持ち場でスキルを提供いただかなければ実現できなかったと思います。このように、想いに共感する人たちをつなぎ、ひとつの何かを実現できたことも、クライアントにとって大きな満足につながったのではないでしょうか。
写真展の会場となった海辺で、展示が広がる光景を見たクライアントの担当者の方が、感極まって目を赤くしていて、それを見て私も涙が出てきました。実施して良かったなと心から思いましたね。

五十嵐:私が携わった中にも、想いに共感してくれたさまざまな立場の方々が集まって生まれたプロジェクトがあります。そのプロジェクトのコアは、肌の悩みを抱える患者さんのためのアパレルをつくり、患者さんの悩みを軽減するとともに、その症状の理解を広めるというものでした。クライアント(製薬会社)と患者さん、アパレルメーカー、そしてファッション業界メディアを巻き込んだ、まさにパブリックリレーションズを体現するようなものでした。
私がそこで担っていた大きな役割は、参画者、特に患者さんとデザイナーの間に入った折衝役でした。当事者である患者さんをないがしろにしてデザインを優先しては本末転倒です。一方で、「患者さんのための服だけれど、一般の方も着たくなるようなファッション性とクオリティを」というコンセプトでつくる服であるからには、デザイナーさんが譲れないという部分を無視するわけにもいきません。
間に入る私は、あくまで患者さんもデザイナーさんもフラットなチームの一員として捉えることに留意しました。チームの役割で言えば、患者さんは機能のスーパーアドバイザー、デザイナーさんはデザインのスーパーアドバイザーです。どちらかに偏ることなく、常にゴールを見直しながら折衝を行っていきました。

想いに共感してともに何かを創り上げる、いわゆる「共創」においては、どちらかが他方に対して一方的に利益を提供するという関係性は健全ではないのかもしれません。PRパーソンは、つながっている人々の関係性を注意深く見極めながら、そのバランスをとっていく役割が求められる、それを身をもって体験した仕事でした。本当に折衝は大変で時間もかかりましたが、その結果すばらしいプロダクトができあがって、患者さんが喜ぶのを見られたこと、そして、デザインに惹かれてプロダクトを手に取った方が症状を知るきっかけになったことで、確かな手応えを感じました。



クライアント、生活者、社会の最大の理解者となって、新しい視点を提供する

桂:私がPRの仕事をしていく上での原動力は、「クライアントを喜ばせたい」、これに尽きる気がします。先ほど「クライアント自身も気づいていないような価値を見つけて磨いて送り出す」というお話をしました。パブリックリレーションズにおいては、クライアントが社会に対して価値を提供し、生活者が幸せになる。そして、クライアントにとって喜びにもつながる、私はそう考えています。
実現するには、PRパーソンは誰よりもクライアントの理解者であるべきであり、そして社会の理解者でもあるべきです。しっかりと時代の潮流や、求められている価値観を分析しながら、クライアントと社会の接点をつくる役割を果たしていきたいですね。

また、クライアントワークから視線を社会全体に移してみると、誰かと誰かの「理解」を深めることで、もう少し優しい社会にすることができるんじゃないかなと思うことがあります。
今はSNSが発達したことで、少数派の声も発信されやすくなってきて、多様性もある程度顕在化してきています。互いに認め合おうという気運もある一方で、発言や情報が他の誰かを傷つけてしまう事態もあちこちで生まれています。これは、自分とは異なる環境や特性をもつ人が、自分とは異なる視点をもっているということに気づいていない結果ではないかと思うんです。良好なパブリックリレーションズを実行することで、そういった相互理解ができていない状態に対して、新しい視点や気づきを伝えて、理解を深めていくこともできるはず。これは個人的な思いではあるのですが、仕事をしていく上でも「優しい社会」に少しでも近づけていこうという姿勢を持ち続けたいですね。

五十嵐:私はこれからも、いかに共感をもって人を巻き込んだパブリックリレーションズを実践していけるかを追求していきたいと考えています。桂が言うように、人は誰でも、他者の視点で見ることは簡単なことではありませんし、今までの常識、慣習の上に思考も成り立っているものです。でも、その慣習や暗黙の了解に対して、ちょっと新しい視点を提示することができるのも、PRパーソンだからこその役割なのではないかと思います。
個人的には私は「世の中を“ちょっとだけ”よくしていく」ことを目標にしています。“ちょっとだけ”なんていうと気概がないと言われてしまうかもしれませんが、あまり大上段に構えて、世の中を変えてやるというような傲慢さをもちたくはないんです。日常の、ちょっとしたことでいいので新しい視点を得る、それで生活者が少し幸せになれる――その“ちょっとだけ”が積み重なって、世の中をよくすることにつながっていくと思っています。パブリックリレーションズの考え方が本当に好きなので、常にその考えを軸に、「世の中を“ちょっとだけ”よくしていく」ことに貢献していきたいですね。

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